第26章 風邪っぴき
「もう叩かねぇからほら。寝ろって。」
シーツを叩かれて大人しくそこに体を落とす。
「オメーは才能があるんだから頑張れよ。テストだって答えが分かってんなら書けよ。やれば必ずとは言わねぇが結果はついてくるからさ。」
「いや。」
虹村さんが頭を撫でながら諭すように言ってくる。
でも私はその穏やかになりつつある空気を壊す。
「...あのなぁ!せっかく俺が...」
「...だって、信じてたのに、欲しかったものが二度と手に入らない現実を突きつけられて、なんのために頑張ればいいかわかんなくなっちゃったんだもん。」
「...欲しかったもの?なにが欲しかったんだ?」
「虹村さんが当たり前に持ってて、私にはないもの。」
「なにそれ?」
「....。」
「黙秘かー?俺が持ってるもんならそれあげるから。」
「他の人のじゃ、意味がないの!」
私は叫ぶ。
「どうして頑張れって言うの!頑張ったってその先に何があるの!わたしは頑張れって言葉が一番嫌いなの!頑張っても結果が何も変わらないなら頑張らないってあの日に決めたの!頑張れしか言えないなら何も言わないで!」
「おい!落ち着け!」
虹村さんの言葉にはっと我に返る。
「....。」
私は何も言えなくて布団を頭から被って丸まる。
にじむらさん、怒ったかな...。
ここ、追い出されても仕方ないよね。
どうせ、誰にも私のことが理解できないんだからあんなにムキになったってしょうがないのになんで...。
ダメだなぁ、一度カッとなると止まんなくなっちゃうの、直さなきゃ。
色んなことを頭の中で考え始める。
それと同時に眠気も襲ってきた。
きっといつもより体温が高いせいだ。
熱のせいだ。
「...ねむ、い。」
そのまま眠気に逆らわず目を閉じた。