第26章 風邪っぴき
虹村さんと虹村さんのお母さんの言い合いはいつの間にか終わっていたらしく部屋を出て行く頃には二人の間に流れる空気は良くなっていた。
「にじむらさん。」
「...やっと出てった...。ん?」
「やっぱりねぎ外す?」
「いーの。オメーはなんも気にすんな。」
頭を撫でられるが気になる。
気にするなと言われると気になるのが人間の性だからしょうがない。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「ねぎ?」
「違う。」
なんだ違うのか。
「オメーさ、頭良いよな?」
「あたまがいいってどういうのをいうの?」
「話を逸らすな。」
虹村さんの顔は真剣そのもの。
でも私は至って真面目だ。
「...みんなからはそう言われるけど、よく分からない。」
「テストで大抵の問題出されても全部答えが分かるとか、授業聞かなくてもテストで満点取れちゃうとかあるだろ?」
「...だって、学校で出される問題なんて教科書からしか出ないし難しいことなんて何もないじゃん。」
「それが頭良いってこと。青峰とか黄瀬とかにお前みたいなこと、できると思うか?」
「...そんなの、できないっていうよりやってないだけじゃん。みんな、やりもしないのに言い訳ばっかりしてばかみたい。」
みんな、やればできるのに、どうしてやらないの。
「馬鹿って...。...オメーに聞きたかったのはそんなんじゃなくてだな、どうして才能があるのに頑張らないのかってことだよ。」
「...えっと、なんだっけ。あれ。なんとか症候群。」
「なんとか症候群?」
「えっと、...も、もえつき、症候群てやつ。」
「なんだそれ?」
虹村さんが首を傾げる。
「今まで頑張ってた人が突然頑張れなくなるやつ。私もそれなのかも。」
「...それで納得しろってか?」
「できない?」
「出来るわけねぇだろ!」
私の頭を叩こうとする虹村さんとそれを反射的に防ごうと起き上がって頭を守る私。
変な空気が二人の間を流れた。
「...そんなに逃げなくてもいいんじゃね?」
「つい...。」
昔の癖が出ちゃった、なんて言えるはずもなく口を噤んだ。