第26章 風邪っぴき
テーブルで食事しながらいると、ふいに虹村さんが私の肩を叩いた。
私は大根を食べていた手を止めて虹村さんの方を向く。
「なぁ、あの問題の答え、分かるか?」
テレビの方を指差されてそちらを見ると、「この三角形の面積を求めよ」という問題が表示されていた。
「あれ絶対答えは35㎠だよな?でも違うんだと。」
虹村さんが苦戦する問題は、底辺が10cmで高さが7cmの直角三角形の面積を求める問題だった。
ある企業の入社試験で出された難関問題らしい。
なにが、難関なの...?
私は虹村さんの答えを聞いてからちょっと考えてみて、そう思った。
隣の虹村さんも私の真ん前に座る虹村さんのお母さんも考えている。
やがてテレビはCMに入った。
「ねぇ、今の問題分かった?」
「全然。柏木は?」
「...分かったけど、答えが合ってるかは知らない。」
「え!分かったの?!ちょ、教えろよ!」
虹村さんが怖い顔で私に迫る。
「...あの三角形は存在しないから面積は求められないんだと思う。」
「は?でも面積はちゃんと求められるじゃねぇか。」
「...そうじゃなくて。...あの三角形を円の中に収めたら、円の直径は10cmでしょ?」
虹村さんと虹村さんのお母さんは私の言葉に頷く。
「...そうすると、半径はいくつになる?」
「そりゃあ、5cm....。それがなんだよ。」
「分かった!そういうことね!」
虹村さんはまだ首を捻っているが、お母さんの方は分かったみたいだ。
丁度いいところでCMが終わる。
CMが終わって問題の答えが発表された。
答えは私が言った通りだった。
テレビの解説で虹村さんはようやく分かったようですっきりした顔をしている。
そんな顔を隣で観察しながら大根を食べ始める。