第26章 風邪っぴき
「オメー慣れてんな。」
「...なにに?」
すっかり泣き止み、普通に喋れるようになった頃、虹村さんは言った。
「嘘をつくことに。」
「....。嘘をつくのは、そんなにいけないこと?」
「別に...。さっきみたいなのはいいけど、人を傷つけるような嘘は賛成できねぇな。」
「...ひとは、どうしてうそをつくんだろうね?」
昔そんなことを問いかけられた。
それを虹村さんに言ってみる。
「どうしてってそりゃあ...自分を良く見せたいからじゃねぇの?」
「....。」
昔質問されたとき、私は虹村さんとは全く違う答えを出した。
誰が正しいとかはないけど、人が嘘をつく理由なんて人それぞれなんだろうけど、昔の私のような答えを出す人なんてごく少数なのだろう。
二人の間に沈黙が流れる。
「兄ちゃん、お風呂のじゅんび、出来たってお母さんが。」
沈黙を破るように、ドアがコンコンと叩かれた。
現れたのは虹村さんの弟の修也だった。
「お。そっか。知らせてくれてありがとな。」
虹村さんが修也くんの頭を撫でる。
修也くんはこっちを見て言った。
「お姉ちゃんもはやく元気になってね。」
「うん。ありがとう。」
まさかそんなことを言われるなんて思わなくて驚いた。
まだ小さいのに気の利いたことも言えるものだなと感心する。
修也くんは用件を伝え終えると部屋を出て行った。
「じゃ、俺風呂行ってくるからちょっと待ってろ。」
着替えを準備しながらそう言う。
虹村さんが部屋を出て行った後もしばらくドアを見つめ続けていたけど、その内ベッドに倒れ込んだ。
また、さむい。
一瞬体を震わせて、布団を抱き枕のように抱きかかえた。