第26章 風邪っぴき
「修造!」
ふいに大きな音を立てて部屋のドアが開いた。
入ってきたのは虹村さんのお母さん。
涙も止まるほどびっくりした。
「あら?...修造、なに由良ちゃん泣かしてるのよ?」
「いや!こいつが泣いてんのは俺のせいじゃねぇから!な?柏木。」
私を見た虹村さんのお母さんが虹村さんに詰め寄る。
詰め寄られた虹村さんは必死そうに私に同意を求める。
「...わたしが、かってに泣いただけ、だから、にじむらさん、責めないで...。」
「あら、そうなの?そうならそうと早く言いなさいよね。」
「俺の言葉信じなかったくせにそれ言うなよ。」
私の言葉でどうやら収まったようで、なにより。
「で、なんだよ?」
「うん?」
「なんで来たのかって聞いてんだよ。」
「あ、忘れてたわ!はちみつ大根をとりあえず作ってみたの。由良ちゃんに味見して欲しくて。今持ってくるわね!」
そう言って虹村さんのお母さんは慌ただしく部屋を出て行った。
戻ってくるのに二分も掛からなかった。
「お待たせ!」
「待ってねぇよ...。」
虹村さんの呆れた声を聞きながら虹村さんのお母さんが持ってきたはちみつ大根が入った容器を見る。
はちみつに漬けられた大根。私が昔食べさせてもらったのと同じものだった。
「はい、あーん。」
箸でつままれた大根を虹村さんのお母さんが食べさせてくれる。
私は味は感じてなかったが、おいしいと言った。
そう言うと喜んでくれると知っているから。
「ほんと?よかったぁ!」
思った通り、喜んでくれた。よかった。
「じゃあまた後で来るわね!」
今度はパタンと静かな音でドアは閉められた。