第26章 風邪っぴき
虹村さんが戻ってきて泣いてるところを見られたくない。
だから隠れることにした。
机の下、椅子を退かせば私が入るくらいのスペースはある。
布団を体に巻き付けて机の下に入って、椅子を盾のようにする。
傍から見ればとても隠れているとは言い難いが、それだけ泣いているところを見られたくなかった。
「何やってんの。」
虹村さんが部屋に帰ってきてからの第一声。
「....。」
私は鼻水を啜ったりで泣いているのを隠したいがために声を出せない。
「おーい、無視?」
虹村さんが椅子を退けて近づいてきた。
「...やだ。来ちゃ、やだ...。」
「...オメー、泣いてんの?どしたー?」
これ以上無視すると怒られそうだったから声を出したら、虹村さんに泣いているのがばれてしまった。
「...泣いてないもん。」
「とりあえずそっから出ようぜ。」
虹村さんはそう言って私を無理矢理机の下から引きずり出した。
私はちょっとは抵抗したけど、虹村さんの力には敵わなかった。
「で、どうした?また具合悪くなったのか?」
首を横に振る。
「...慣れてるのに、っひ、とりさびしか、た...。」
正直に泣いてる理由を言うなんてどうかしている。
きっと、ううん、ぜったい、ねつのせいだ。
「...そっかそっか。寂しかったのか。一人にして悪かったな。」
こんないつもと違う私にも優しくしてくれる。
にじむらさん、やさしい。
頭を撫でて抱きしめられた後、抱っこして布団の上に降ろしてくれた。
「ほら、もう一人にしないから泣くなって。」
未だに泣き止めぬ私の頭を撫でながら虹村さんが落ち着いた態度でそう言う。
「...泣いてない。」
目を擦った真っ赤な目と啜った赤い鼻をして虹村さんを見る。
「ま、無理に涙止めなくてもその内止まるだろ。俺何も見てないってことにするから。」
「うん。」
虹村さんの言葉にまた涙が出てきた。
きょうはほんとうになみだもろい。