第26章 風邪っぴき
「あれは完全に楽しんでるな...。」
虹村さんがドアの方を見て苦笑いしている。
「にじむらさんのお母さん、薬のこと詳しかった。」
「あぁ...。ああ見えて元薬剤師だからな、おふくろは。」
へぇ。だから、あんなに詳しかったんだ...。
「つか言えよな。そしたらオメーもあんな苦しまなくてよかったんじゃねぇの。」
逆だよ、虹村さん。一回苦しむ姿を焼き付けておけば私の言い分も言い訳じゃなくなる。
それを教えてくれたのはお前らじゃない。
「...練習で慣れてるから平気。」
「練習?」
「薬飲む練習させられて、何度も吐いたことある。」
「うぇっ。想像するだけで気持ち悪いな...。」
虹村さんが嫌そうな顔をするからもうこの話は止めることにする。
「あ、そうだ。柏木、ご飯何食う?」
「...ごはん?」
「おふくろに昼はお粥食ったって言ったら、じゃあ夜は別のものにしようって。聞くの忘れてたわ。何もいらないは却下な。」
「....。」
唐突に何食べたいか聞かれても困る。
風邪のときって、なに食べてたっけ...。
「...はちみつだいこん。」
「はちみつだいこん?なにそれ?」
「...しらない?」
「初耳...。」
「しらないなら、いい。...ホットミルク。」
「それなら知ってる。そんだけでいいのか?」
私は頷く。そして、付け加えて言う。
「さとう入ってるのがいい。」
「分かった。じゃあ言ってくるからちょっと待ってろ。」
虹村さんは部屋を出て行った。
またひとり...。
他人の家に一人きりだとなんだか寂しい。
自分の家だったら慣れてるのに、こんなあったかい家で一人は寂しい。
熱のせいですぐ泣くしわがままだし嫌われたかな...。
そんなことを考えていたら泣きたくなってきて涙が出てきた。