第26章 風邪っぴき
「由良ちゃんいらっしゃーい!」
虹村さん家の玄関ドアを開けて私が聞いた第一声がそれだった。
「ただいま。」
「由良ちゃん本当に具合悪そうね...。大丈夫?」
「...うん。」
寄ってくる虹村さんのお母さんに力のない笑顔で笑いかける。
「とりあえず修造の部屋のベッドに寝かせましょうか。」
「はっ?」
「ほら、何ぼさっとしてるの!早く連れてきなさい!由良ちゃんも修造の背中より布団の方がいいに決まってるわよ。」
「...分かったよ。」
虹村さんの顔は見えないけど、多分すごく嫌そうな顔してる。
虹村さんの部屋は二階にあるらしく階段を上る。
部屋のドアを開けて中に入る。
虹村さんの部屋は意外と綺麗で整理整頓されているシンプルな部屋だった。
でも机の上がちょっと汚い。
私はベッドに降ろされた。
「にじむらさん。」
「なに?」
「...わたしの寝るところ、床でもだいじょうぶだよ。」
「何言ってんの。オメーは病人を床に寝かせられるわけねぇだろ。」
「でもそうしたら、にじむらさんの寝る場所、なくなっちゃう。」
「予備の布団があるから大丈夫だ。病人がそんなこと気にすんな。な?」
そう言って頭を撫でられる。
「じゃ、ちょっと下行ってくるから待ってろよ。」
「うん。」
虹村さんの手が離れて、部屋から出て行ったのを見届けてから息をはく。
そして、私の上に掛かっている布団を抱きしめて抱き枕のようにする。
そこに顔を埋めると虹村さんの匂いがした。
「さむい。」
寒気がまたやってきたが、布団を抱き枕のようにするのは止めない。
その内虹村さんが帰ってきた。