第26章 風邪っぴき
「ほんとはオメーの母ちゃんが帰ってくるまでいるつもりだったんだけどさ。そういや、母ちゃんはいつ帰ってくるんだ?」
お母さんが帰ってくるまで。
お母さん...か。
「....。」
「...柏木?」
「...私の部屋の机の上に、写真立てがあるから、それ取ってきて。」
「う、うん、わかった!」
さつきが部屋を出て二分ぐらいで戻ってきた。
「これで合ってる?」
「うん、ありがとう。」
さつきから写真立てを受け取る。
そして、みんなの方に向ける。
「...お母さんならここにいるから、もう帰っていいよ。」
「それ、オメーの母ちゃん?キレーだな。」
「黒髪なんだね。綺麗で優しそうな人...。」
「.....。」
写真に写るのは、ふわふわの黒髪で優しそうな笑みを浮かべた二十代後半の若い女。
「って、オメーの母ちゃんの写真見せたってダメだ。ちゃんと本物が帰ってくるまでいるわ、やっぱ。オメーらだけじゃ心配だしな。」
そういえばよく見ると、目の前の三人と私以外にこの家から人の気配がしない。
他の人は私が気を失ってる間に帰ってしまったようだ。
虹村さんの言葉に何ていえばいいか考える。
そして、考えた結果がこれだ。
「...虹村さん、お母さん、いつ帰ってくるか分かんない。昨日は帰ってこなかった。今日は朝は居たみたいだけど、私は寝てて気づかなかった。今日はもう帰ってこないかもしれないから、もう帰っていいよ。」
何故か涙目になっていた。
「...お母さん、私がこの家で意識がある時は絶対帰ってこない。寝てる時にしか帰ってきてくれない。」
この家で一人でいることなんて慣れてるのに泣いたって仕方ないのに涙が出てきた。
言いたいことを言い終えて泣いていると、誰かが抱きしめてくれた。