第26章 風邪っぴき
「おい、薬飲み終わったんなら早く布団入れよ。」
虹村さんが部屋に戻ってきて最初の発言がこれ。
「うん。」
私は大人しく何も言わず、その言葉に従う。
「ほら、水貸せ。」
抱きしめていたペットボトルを虹村さんに渡す。
「薬飲んだし、早く寝れば治んだろ。早く良くなれよ。」
頭を撫でられる。
「まだあんまりねむくない。」
「そっか。」
「にじむらさん、て、かして。」
「ん。」
差し出された虹村さんの手を触ってみる。
大きくて、骨ばっていて、温かい。私の手とはまるで違う手。
その手を自分の頬に当てる。
「まくら...。」
「俺の手は枕じゃねぇから!枕代わりにすんじゃねぇぞ!」
虹村さんの焦った声が聞こえた。
でもそれと同時に段々と虹村さんの声が遠のいていく感じもしてきた。
「おやすみなさい...。」
その言葉を最後に私の意識は途切れた。
虹村side
「おいおい、ほんとに俺の手枕代わりにして寝やがった...。」
ま、いっか。
さっきまで苦しそうだった顔も今や穏やかな顔になっている。
寝姿は心なしか幼く見えた。
「ったく...こいつ、力強いな。...抜けねぇし。」
柏木の顔の下にある自分の手を引っこ抜こうと試みるが、出来ない。
...俺こいつが起きるまで帰れないじゃん。
こうしてると、こいつも普通の中学生なんだがなぁ。
寝ている柏木を見てふと思う。
俺の親父のことを知ってた。他にもなんか知ってんのかな。俺の将来のこととか...って何言ってんだ俺...。
一人で頭を抱える。
それよりも、だ。
こいつのこと、俺まだ何も知らないんだよなぁ。こいつの中にいる人格たちも教える気ねぇしこいつ自身も何も教えてくれねぇし。
俺が卒業するまでにはなんとかしてやりてぇな。
虹村side終わり