第26章 風邪っぴき
そんな時だった。名前を呼ばれたのは。
「あれ、柏木?」
「ん、だれ。」
「何してんの。」
虹村さん。虹村さんこそ、何してるの。
あ、そっか。
「...お父さんのお見舞い。」
「は?そういや、オメー、今日体調悪くて部活休んだんだっけ。大丈夫か?」
「ん。」
虹村さんの問いに頷く。
「大丈夫そうに見えねぇけど...。無理そうなら看護師さん連れてくるけど平気か?」
「うん。」
もう一回頷く。
「それならいいけど。で、何してんの?」
「...赤司くんが迷子の緑間くん探しに行っちゃって待ってる。」
「一人でか?」
「うん。」
「じゃ、俺暇になっちまったから赤司たち来るまで一緒にいてやるよ。一人にしとくと心配だからな。」
わたし、ひとりでもへいきだよ。だって、ひとりじゃないもん。
虹村さんの言葉に、昔そんなことを言ったような気がした。
一人で居るのが当たり前で、誰かに頼ることが出来なかったあの頃。
今も人に頼るのはあんまり得意じゃないけど、でも懐かしい。
「...虹村さん、は元気?」
「んー?俺は体調管理がしっかり出来てるからな。元気だ。オメーはなにしてそんなんになっちゃったんだ?」
そう、虹村さんに聞かれてこうなる前の夜のことを思い出してみた。
なんかすごく眠くて、夜に眠くなるの久しぶりだったなぁ。じゃなくて。
「お風呂、入って、すぐ寝ちゃった。」
「髪乾かさず寝たのか?」
「...そうみたい。」
ところでどうして髪乾かさないで寝たか分かったのか聞いてみる前に思い出した。
長かった合宿で髪乾かさず、赤司くんに乾かされていたのを虹村さんに見られていたような気がする。