第25章 rainy day
「結構遅くなっちまったなぁ。母ちゃんから連絡来てねぇか?」
「ううん。何も来てない。」
「それならいいんだけどよ。家帰って怒られたらごめんな。」
頭に手を置かれる。
「...大丈夫だよ。絶対、怒られないよ。」
「そうか?」
怒られる訳ないよ。だって私のお母さんはもう...
雨が止んだ夜道を虹村さんと歩く。
街灯も点々としていて周りに明るいものといえば、家の明かりぐらい。
雨が止んだばかりなのか、道のところどころに水たまりがあるし、何より湿気がすごい。
「...虹村さんは、自分の家が好き?」
「なんだ急に?...好きだけど?」
あんな暖かいもんね。私もあの家は好きだなぁ。
「私も、虹村さんのお家は好き。」
「俺ん家よりオメーん家はどうなんだよ?」
「...自分の家は好きになれる気がしない。」
「なんで。」
自分の家は好きじゃない。
なんでって?
つめたいから。
「...なんとなく。」
今の私にはそれしか答えることが出来なかった。
「なんとなくって、なんだそれ。」
虹村さんは笑う。
「自分ん家が好きじゃなかったらオメーはどこで休むんだよ。」
「....。」
「人によるとは思うけど、俺は家が一番落ち着ける場所だと思ってる。家に帰るとホッと一息つけるというか。まあ、親と喧嘩中だとちょっとつらいかもしんねぇけど、帰ってこれる家があるっていうのは幸せなんだよ。」
「帰ってこれる家...。」
「自分ん家はあんまり好きじゃなくても大事にしろよ。」
また頭に手が乗って、今度は撫でられる。
私はこの手が好き。
虹村さんのことは嫌いだけど、この手は好き。
私がいくら頑張っても手に入れられなかったものの一つ。
虹村さんは私に家族の大切さとか温かさを教えようとしてくれてるみたいだけど、私にそれが伝わることはないよ。
虹村さんの家の家族は私も好きだけど、私の家族はね、虹村さん家とは程遠いものだったから。
私に虹村さんの思う家族がよく分からないように、虹村さんもきっと私の思う家族が理解出来ないだろうね。