第25章 rainy day
虹村side
「監督、話って何ですか?」
「柏木のことだ。柏木は体育館での出来事を覚えていないだろう。」
「...どうして、そう言い切れるんですか?」
「柏木を運んだ時に、どうして自分が私に運ばれているのかを聞かれたんだよ。私は柏木の病気については知らないが、恐らく自己防衛反応が働いて記憶障害を起こしているのだろう。」
「...記憶障害って何なんですか?」
「簡単に言えば、自分を守るための盾の役目をしているものだよ。」
「柏木は本当に覚えてないんですか?」
「あぁ。」
監督が保健室で話してくれたことに俺は納得できなかった。
記憶障害ってなんだよ。覚えてないから仕方ないってふざけんなよ。
自分に都合の悪いことだけ忘れて楽しいことだけ覚えてればいいなんてそんなの甘ったれてる。
俺だってなぁ、この現実忘れてぇよ。
親父の病気のこと、本当は夢なんじゃないかって思いたいよ。
人間は忘れる生き物だって聞いたことがある。
本当に忘れたいことに限って忘れらんねぇし、覚える必要のあるもんに限って忘れるし。
監督がどうして柏木のことを話してくれたのかは分かんねぇ。
けど、忘れてるからそっとしておいてくれなんて現実から目を背けるようなことはさせない。
たまには現実から目を背けたっていいと思うけど、背けた分はちゃんと受け入れなきゃなんねぇんだ。
それを柏木には分かってもらいたい。
俺も現実から目を背けず頑張ってんだから柏木も頑張ってほしい。
そう思ったから体育館での話をした。
柏木はおかしくなった。
母親の話をした途端、何度か見たことのある様子で柏木は話し出した。
なんで柏木は親の話をするとおかしくなっちゃうんだろうな。
虹村side終わり