第23章 合宿
「...この先には私たちの部屋しかないけど着いてくる?」
話しながら歩いていると、着くのが早い。
私が振り向いて言うと、着いてきた人は誰もいなくてみんな帰った。
部活の準備があるからかな?
私も部屋に入って未だ寝ているさつきを起こしにかかる。
さつきは寝息を立てて寝ている。
体を揺すってみるが起きない。
もう一度体を揺すっていると頭に昔の映像がちらついた。
薄暗い部屋、息をしていない冷たい体、人形みたいにだらんとした手足。
昔のことなのに今目の前で起きていることのように感じる。
さつきは息をしているし寝返りも今打って体も動いたのに、さつきの姿があの人と重なってしまう。
自分の体が震えて、酸素もうまく取り込めなくて苦しくて。だからその部屋から一旦出て自分を落ち着けた。
まだ理性が残っていて良かったと心底思った。
こんなところでパニックなんて起こしてこれ以上みんなに赤司くんに迷惑はかけたくない。
そろそろ部活の時間がやってくる。
部屋に戻ったら自分が何をするか分からないから、さつきはこのまま寝かせておいて、よろよろと立ち上がり体育館に向かう。
部員はみんな体育館に集まっていて、その中から赤司くんを見つけて事情を説明した。
納得してもらえたようで良かった。
でもホッとしたのもつかの間、赤司くんから離れて仕事をしに行こうかと思ったら手が掴まれた。
「柏木待て。顔色が悪いが大丈夫か?」
ドキッとした。
あのあと自分の顔を鏡で見たわけじゃないからよくは知らないけど自分の顔色が悪いことに自覚はあった。
「...大丈夫だよ。...私は、大丈夫だから。」
さっきからこの言葉を呪文のように繰り返しずっと心の中で言っていた。
大丈夫と言えば本当に大丈夫な気がして。
「大丈夫に見えないんだが。」
赤司くんが心配してくれる。
だけど私はそんな心配をさせまいと嘘をついた。
笑顔で口から出まかせが勝手に出てくる。
そして、未だ心配する赤司くんを振り切って仕事をしに行った。