第23章 合宿
「柏木、どうした?忘れ物か?」
「...取り込み中ならあとでいいや。」
そう言って部屋を出て行こうとしたが、コーチに呼び止められた。
「柏木、少し話がある。」
「話...?」
「真田さん、それは私と赤司も聞いていい話かね?」
「はい。」
「じゃあ柏木もここにいるといい。もうすぐ話も終わるからこれを読んでいるといい。」
監督がカバンをゴソゴソと漁って取り出したのはさっき読んでいた『犬がバスケで世界征服』だった。
「うん、読む。」
本を受け取って少し離れたところに座り読みかけのページを開いた。
数秒眺めてページをめくるのを繰り返した。
丁度最後のページをめくった頃に話が終わったらしく名前を呼ばれ監督の隣に行った。
「これ、読み終わった。」
本を監督に返す。
「お。もう読んだのか。ではあとで感想を聞かせてもらおうかな。」
「うん。」
「真田さん、話をどうぞ。」
「実は昨日柏木が体調を崩してから何度か親御さんの連絡先に電話をかけているんだが一度も出ない。...これはどういうことだ?」
コーチが私の方を向いて話し始めた。
電話...してたんだ...。
「...お母さん、電話にはほとんど出ないので。」
「それなら何故それを緊急連絡先に選んだ?」
「書かないより書いた方がいいと思って...。」
コーチはそれを聞いてため息をつく。
「あのな、それでは緊急連絡先の意味がないじゃないか。」
「...そうですね。」
「柏木の母は何の仕事をしているんだ?」
今まで口を閉ざしていた赤司くんが聞いてきた。
「...知らない。」
「知らないなんてことはないだろう?」
「...ほんとに知らない。」
「まあまあ、それくらいにして。そろそろ行かないと部員たちも待っていることだし。」
監督が話を終わらせ、早く体育館に行くことを自然に促した。
そのおかげで私は赤司くんの質問攻めから逃れられた。