第23章 合宿
この歌は綺麗だけど悲しい、そんな感じの歌。
昔の童話がモチーフになっていてハッピーエンドじゃなくてバッドエンドで終わる。
静かな廊下に私の声だけが響く。
「...なんというか、不思議な曲ですね。」
歌い終わって数秒ぼーっとしていたら、突然声が聞こえたからそっちを向いてみた。
「...テツヤ。」
テツヤがいた。いつからそこにいたのか。
「こんなところで何してるんですか?」
「...歌、うたってた。」
「そうではなくて...」
テツヤが言いたいことは分かるがそれに気づかないフリをして首を傾げる。
「いえ、何でもありません。」
テツヤが隣に座ってきた。
「ここ、暑いから早く部屋に戻った方がいいよ。」
「部屋も大して暑さは変わりませんよ。」
「...そうなんだ。」
「先ほどの歌、もう一度最初から歌ってくれませんか?」
「いいよ。」
誰かに聞かせるために歌をうたうのはあんまり好きじゃないけどテツヤのことは別に嫌いじゃないから歌ってあげようと思った。
「柏木さんの声って綺麗ですよね。」
「...きれい?」
「はい。」
「...初めて言われた。」
ちょっとだけ嬉しかった。
そろそろ休憩時間が終わるということでテツヤは準備のため部屋に戻ってしまった。
私は休憩時間終了までここにいるつもりだったけど、思い出したことがあって立ち上がって歩き出した。
向かった先は監督の部屋。
「入っていい?」
部屋の前で声を監督にかける。
「...いいぞ。」
障子を開けると、監督だけじゃなくてコーチと赤司くんが座っていた。