第16章 お菓子と彼と
虹村さんは大切にされてきたんだね。
いいなぁ....。
気づけば私の目からは涙が流れていた。
「お、おい....どうした?」
急に私が泣き始めたからか今度は心配をし始めた。
赤司くんの方からも視線を感じる。
「.....。」
虹村さんに言い返したかったけどできなかった。
この人には....親に愛されてきた虹村さんにはなにを言っても無駄だと思ったから。
「ごめんなさい。そうですよね。親は大事ですよね。」
このまま何も言わないままだと気まずいと思ったから、精一杯の笑顔を作ってそう言っておいた。
虹村さんの体を押して逃げて、手近にあったトイレに駆け込んだ。
個室に入って、目を瞑って耳も塞いでうずくまって小さくなる。
虹村さんの言葉と記憶の奥底に埋めたはずの幼いころの記憶と今の自分のよく分からない感情とが混じりあって胸が締め付けられた。
幸いにもこの時間帯は人が少なく、トイレには誰もいなかった。
苦しい。
痛い。
つらい。
憎い。
死にたい。
だけど生きたい。
負の感情が私を包む。
頭の中から聞こえる声に耳をふさぐ。
例えそれが無意味なことだと分かっていても。