第1章 旅の始まり
あれから、大分進んだこの道。
何事もなく進めているのが、本当にありがたいことだとアリババが呟いていた。
しかし、そんな時に私は何だか妙な気配を向こう側から感じ取った。
大きな"何か"がいる。
それを知った瞬間、私達の右側の砂漠に大きな穴が開き、怪物が現れたのだ。
奴隷達の荷車も私達の荷車もそれによってひっくり返る。
アリババが急いで荷車を止めようとしても、それは叶うことなく倒れてしまった。
それと同時に勿論ぶどう酒も全てころころと転がり落ち、ぽっちゃりさんが慌てて酒の収集にまわったのだ。
アリババもその人に命令されて急いでぶどう酒を集める中、私はぽっちゃりさんの真後ろに小さな子供がいることに気づいた。
『あ、危な──』
しかし、気づいて手を伸ばした時には遅く、その小さな子はぽっちゃりさんにぶつかりその大きな穴…怪物がいる所へと落ちてしまったのだ。
それを見て私は慌てて助けに行こうと一歩踏み出す。
しかし、そんな私の事をアラジンは止めてきた。
こんな危ない時にどうしてアラジンは止めてくるのだろうか。
そう疑問に思いながらも私は不安でいっぱいの中、その様子を見た。
「よし、あいつが"エサ"を食ってる間は安全だ!急げ!」
そうぽっちゃりが叫ぶ。それに私は唇を噛み締めながらアラジンを見た。
何故助けに行っては駄目なの?アラジンはそんな子じゃない筈なのに。
そう強く思いながら流石に我慢できなくなった時。
「ふざけんな!!!酒は金で買えても、人の命は金で買えねぇんだよ!!!!」
なんとアリババがぽっちゃりを勢いよく殴り、酒を1つだけ持ってなんの迷いもなく穴に飛び込んだのだ。
それには私も周りの人も驚く。
その犠牲になっている子供の母親も、今はアリババに頼る事しか出来ない。
ぽっちゃりはそんなアリババを見て鼻で笑っていた。
もう怒る気力さえなくす。
私はただひたすらにアリババのその勇気ある姿を見ていた。
やっぱり、彼は間違えなどではなかった。アリババは正真正銘、強い心を持った優しい人である。
そう思って、私とアラジンは頷きあった。
そっか、アラジンはこれのために私を止めたのね。
そう理解しながら、私はネックレスを握った。