第7章 春色桜恋印/石田三成
間もなくして、部下の男が自室を訪ねてきた。
「……貴様、手回ししたな。全く、余計な真似を」
書物に目を通したまま、部下に言う三成。さすがは策士だ。部下の策略を見事見抜いたのだから。
「出過ぎた真似を致し、申し訳ございません!」
「……貴様に一つ貸しといてやる。この借り、次の戦で名を上げて返せ」
「はっ!」
と、そこへ……
「三成様、お茶のお代わりをお持ち致しました」
障子越しに、あの娘の声がした。
「貴様!!!!!」
「わ、私では御座いませぬ!! ……もしや……」
「何だ、早く話せ!」
「三成様、お耳を」
部下は三成の元へ行き、自分に向けられた耳にヒソヒソ声で打ち明けた。
「先程の渡り廊下での様子、見ていた者が複数おりまして……。皆、三成様の【恋】を各々応援し始めたのかもしれませぬ」
「な、何!? そ、そもそも【恋】などしておらぬ!!!! そんな事に、うつつを抜かしている場合では」
「あの……お茶が冷めてしまいます」
障子に向かい、それを開けると三成は娘に言った。
「部下の馬鹿共が何度もすまない。用があれば、俺から直に言う。それ以外の俺に関する命は一切聞かなくて構わん」
「……承知致しました。あの……無礼を承知で言わせてください」
「いいだろう。何だ?」
娘は床に付けていた顔を上げ、初めて三成の目を真っ直ぐ見つめた。