• テキストサイズ

マイカラー・パレット

第7章 春色桜恋印/石田三成



自室に着いてからも何だか落ち着かない三成は一人、訳もなくグルグルと同じところを歩き回っていた。


「美しい」
自分が発した その一言。何故あんな言葉が口から出たのか……いつもの自分なら、絶対言うはずがない。


では、何故?


「あ、あの……三成様」

「ん? また貴様か!」


障子をやや乱暴に三成は開けた。その向こうにいるのが先程の部下だと思ったからである。


だが、その予想とはまるで違う人物が障子越しで、床に手をつき、頭を下げていた。


「……お前は」

「お茶を運ぶよう、頼まれましたので……」


それは、柱を磨いていたあの娘。


「そうか……」


間近で見た娘は遠くで見た時よりも、肌に透明感があり、頭を下げた箇所から着物と黒髪までの間が伺え、艶やかな魅力を放っていた。


「……さ、下がれ!!!!」


浮き足立つ自分の気持ちに苛立ち、声を荒げてしまう。それが更に三成をイライラさせた。


「失礼致します」


だが、そんな三成に対し、気にする素振りも見せない娘。静かに立ち上がると、三成と目を合わせる事も無く一礼し、歩き出した。


あまりにも淡泊な娘の態度。


「……馬鹿か、俺は」


頭をクシャクシャと掻きむしり、娘が持ってきた茶を持ち、三成は自室へ入ると障子を閉めた。


ヒラヒラ……


春風に舞う花びらが静かに二人の様子を見つめていた。





/ 43ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp