第7章 春色桜恋印/石田三成
自室に着いてからも何だか落ち着かない三成は一人、訳もなくグルグルと同じところを歩き回っていた。
「美しい」
自分が発した その一言。何故あんな言葉が口から出たのか……いつもの自分なら、絶対言うはずがない。
では、何故?
「あ、あの……三成様」
「ん? また貴様か!」
障子をやや乱暴に三成は開けた。その向こうにいるのが先程の部下だと思ったからである。
だが、その予想とはまるで違う人物が障子越しで、床に手をつき、頭を下げていた。
「……お前は」
「お茶を運ぶよう、頼まれましたので……」
それは、柱を磨いていたあの娘。
「そうか……」
間近で見た娘は遠くで見た時よりも、肌に透明感があり、頭を下げた箇所から着物と黒髪までの間が伺え、艶やかな魅力を放っていた。
「……さ、下がれ!!!!」
浮き足立つ自分の気持ちに苛立ち、声を荒げてしまう。それが更に三成をイライラさせた。
「失礼致します」
だが、そんな三成に対し、気にする素振りも見せない娘。静かに立ち上がると、三成と目を合わせる事も無く一礼し、歩き出した。
あまりにも淡泊な娘の態度。
「……馬鹿か、俺は」
頭をクシャクシャと掻きむしり、娘が持ってきた茶を持ち、三成は自室へ入ると障子を閉めた。
ヒラヒラ……
春風に舞う花びらが静かに二人の様子を見つめていた。