第6章 ニブンノイチ/西門総二郎
少し歩いた先に噴水があり、私たちはそこで足を止めた。
「私と総二郎は付き合ってたの、大分前にね」
「付き合ってた? 弄んだの間違いだろ。お前は突然、俺を置いて消えたんだ。……本気だったのに」
切なそうに視線を落とす総二郎さんから目が離せなかった。
【女なんて、みんな"その時"だけなんだ】
そう彼が呟いたのを私は思い出したから。
何かに傷ついてたのは察してた。……その原因を知りたいと、彼を救いたいと心の片隅で思ってきた。何の取り柄もない私だけど、彼が好きだから……
「……あなたの両親にバレてたの。私は家庭教師、あなたは生徒。当然、辞めさせられたわ」
真相は悲しみに溢れていて、泣かない二人の代わりに私はボロボロ泣いた。
「それなら言ってくれれば……」
「言うことすら叶わなかった。……あのあと、私は留学したの。どういう事か分かるでしょ?」
「……そこまでしたのか、家の親は」
「ごめんなさい、総二郎。あなたをたくさん傷つけて」
「今更……。全部、無かったことにしてくれ!!」
総二郎さんは そう叫ぶと、全てを忘れ去るように全力で走り去った。
「……私は忘れるなんて出来なかった。だから、総二郎を見つけて声を掛けずにはいられなかった……」
「私があなたの立場だったら、同じ事をしたと思います。でも……彼を苦しめることは絶対しなかった。……失礼します」
彼を追う私の背中に彼女は静かに涙を流した。
「……思いが足りなかったのね、私は……」