第6章 ニブンノイチ/西門総二郎
桜の木の下に居る彼を見つけ、私は駆け寄った。
「付き合っていながら、他の女を引きずって……嫌いになっただろ?」
「黙ってたけど、知ってたよ。付き合った時から」
「……お前もかよ……」
「ごめんなさい。でも……」
私の話を聞くこともせず、彼は言い放った。
「俺のことは忘れてくれ。……全部、無かったことに」
「無かったことにしないでッ……!! あの人の気持ちも総二郎さんの気持ちも私の気持ちも……」
無かったことにしないで……
「忘れるなんて出来なかったって、あの人は言ってた。あの人だって苦しんだと思う」
優しいあなたは気付いてた。彼女と話していく中で。だから、責めきれなくて行き場を無くした気持ちを抱えて走り出した。
「私は何があっても側にいるから。……だから、黙ってた。話したら、今みたいに"忘れて"って言い残して私の前から姿を消したでしょ?」
無かったことになんてさせない。
こんなにも、あなたを好きなんだもん。
この気持ちは無かったことに出来ないよ……
「……お見通し、か」
力なく総二郎さんは笑い、私を抱き締めた。
「本当、どこまで惚れさせれば気が済むの?」
「あなたの傷が癒えるまで」
「はぁ……君には負けたよ」
桜の花びらが舞う中、私たちは笑い合う。
何でも二人で分け合って、愛を深めていきたいな。
ニブンノイチ【完】