第6章 ニブンノイチ/西門総二郎
人気店らしく、公園内に来ていた車の移動式のクレープ屋さんは人で混雑していた。「並んでいる間に注文するものを選んでいてください」と店員さんから渡されたパンフレットを二人で寄り添いながら見る。
触れる肩に彼の温もりが伝わり、近くに咲いている桜同様、私の頬をほんのりとピンクに染めた。
「……ちゃん」
彼に呼ばれ、見上げると……
パンフレットで周りから見えないようにして、落とされた口づけ。
「そ、総二郎さん!!」
「ごめん、あまりに可愛いから」
そんな事言われたら、ただ頬を膨らませるしか出来ないじゃない。笑う彼の横顔に「もう……」と声を吐き出した。
「総二郎!?」
その時、見知らぬ女の人が彼に駆け寄ってきた。
よくある事で、私はもう慣れた。
でも……今回はいつもと違う。
総二郎さんの顔から笑顔が消え、見たこともない怖い顔で女の人を睨んでいた。
「……よく声を掛けられたな」
「まだ引きずってたの?」
「……ふざけるなよッ!!」
彼の怒鳴り声に何事かと視線が集まる。
このままじゃマズイと思い、私は二人と場所を変えることにした。
「ちゃん、ごめん。この埋め合わせは、後でするから」
「彼女にも居てもらいましょうよ。その方が彼女も変に誤解しなくて済むでしょ?」
「……この子は関係ない。巻き込むのは、やめてくれ」
関係ない、か。
私を思って出た言葉なのは分かるけど……
「関係あるよ! ……ごめんなさい。私……残る」
「……好きにしろ」