第1章 こたつの虜/達海猛
その頃、選手たちから"一目置かれている"男は……
「やっぱ日本の冬には欠かせないよね! こたつとみかん!!」
グランドが見渡せる一室に こたつを用意し、くつろいでいた。
「監督!! いい加減、練習に出てきてくださいよ!!」
「やだよー。外寒いしさー」
「(……どこまで自由なんだ、この人は……)」
重いため息を吐くコーチの松原に対し、達海のマイペースは変わらず、こたつの上にある みかんに手を伸ばし、皮を剥き始めた。
「松ちゃんはね、心配しすぎ。アイツらだって大人よ? 俺が居なくても自分たちで考えて動くさ」
「しかし……」
「それに、キツイ練習の後にはご褒美も用意したから大丈夫!!」
「そういう問題じゃ」
「まーまー、入りなよ。ほら、みかん! 甘くて美味いよ~」
達海に言われるがまま、松原もこたつに入った。【監督命令】と言わんばかりの圧に彼は負けたのだ。
「……これで、松ちゃんも共犯だからね♪」
「ハッ!! しまった……」
コンコンッ!
その時、部屋のドアが軽快なリズムで叩かれた。
「こんにちは! 週刊フットボールのです!」
「お! ナイスタイミング! ドア開いてるよ~」
「お邪魔します……って、え!? こたつ?」
「うん、こたつ。あと、みかんも」
異様な光景に目を丸くする。
各チームに取材をしているが、こんな腑抜けた舞台裏を見たのは初めてだったのだろう……。
「さん、だっけ? 今日来て良かったね! ……もっと面白いもの見せてあげるよ」
達海は企み顔でニヤリと笑った。
彼の言う面白いものとは一体?