第1章 こたつの虜/達海猛
「オラオラオラ!! 寒ぃからって、チンタラやってんじゃねーよッ!!」
「よしッ! ラストー!!」
「はいッ!!」
最下位チームから這い上がるため、ETU(イースト・トウキョウ・ユナイテッド)は冬のキャンプ真っ只中。
"ある男が監督に就任したことにより、劇的な進化を遂げたETU。無論、選手たちもその監督に一目置いている"
「んな訳あるかッ!!」
「わ、わぁ!? ビックリした……」
「あ、椿。お前、この記事 読んでねーの? 監督のこと、ベタ誉めなんだよ!」
世良から手渡された一冊の雑誌。【サッカー選手も見逃せない! 】がキャッチフレーズらしい。表紙にデカデカと目立つように書かれている。
「……世良さんの好きそうな見出しだなぁ。えっと、監督の記事は……」
「椿……全部聞こえてる」
「あ! す、すみませんッ!!」
椿は慌ててパラパラと頁を捲っていく。
「これだよ、これ」
見かねた世良がサポートに入り、記事を見つけることができた。
「……この記者さん、細かいところまで見てますね!」
「いや、そこじゃなくて!!」
「俺は監督の事、尊敬してるっス!」
「……今日も練習に出てこないのにか?」
「また何か考えが」
「いや……松原さんがさっき、"監督がこたつから出てこない!!!!"って絶叫してた……」
冷たい風が二人の間に吹き抜ける。
寒さが増した午前10時のグランド。