第1章 留守番(銀時/寂しい感じ)
「いやー、思った以上に依頼がハードでよお」
飄々としているけど、歩き方が変だ。絶対に、見た目より重傷を負っている。
病院行く? それとも手当て、わたしがやったほうがいい?
「今日な」
少し言いづらそうに、銀ちゃんが頭をかきながら言った。
「もう一件、仕事はいっちまって、行かねーといけねえんだわ」
そっか……わたしが手当てするのね。
「まあ、そっちは大したことねえっつーか、全然別件っつーか、全く心配いらねえんだけどよ、ちょっと……」
そんなに誤魔化したり、言いづらそうにしなくていいのに。
「朝までかかるかもしれねえから、今日は、なんつーか……わる」
「銀ちゃんおいで?」
なにか我慢できなくて、わたしは最後まで言わせなかった。飛びつくように駆け寄って、手を引き、ソファーに座らせる。
大きなため息が出そうなのを呑みこんで、救急箱を取って、銀さんの足元に座った。
「紗希、あの」
「どーせすぐ行くんでしょう?」
銀ちゃんの言葉をまた遮る。聞きたくないよ。なんにも。
「こんな格好で行ったら、その別件の依頼主がびっくりしちゃうよ」
いじわるなわたしの言葉に、銀ちゃんはなにも返してこない。
消毒液とか、絆創膏とか、ガーゼとか、包帯とか、もう何にも分かんない。適切にできているのかもわかんない。手は震えるし、手当てなんてしなければ、わたしの思いもバレずに済むのに。
わたしってつくづく嫌な女。
銀ちゃんのウソも言い訳も、うんうんって、ハイハイって笑って聞いてあげればいいのに。素直に心配してあげればいいのに。笑顔で送り出せたらいいのに。
なんにも聞きたくないからって、なんにも言わせないようにするし。
ちゃんと笑えてないし。
行かないでって、泣いて引き留めるかもしれない。
サイテーだ。銀ちゃんのお嫁さん失格だね。
「神楽ちゃんと新八くんは?」
銀ちゃんは何も言ってくれない。目を合わせる自信がないから、銀ちゃんが今どんな顔をしているのか分からない。引き留めていること、怒っているかもしれない。せっかく、今日一緒に過ごせないこと、報告しにきてくれたのに。