第1章 留守番(銀時/寂しい感じ)
遅い。嫌な予感がする。
お昼に依頼が来てからそのまま、依頼主と一緒に出て行ってしまった、銀ちゃん。神楽ちゃんも定春も、新八くんも、みんなで仕事に行ってしまって、わたし独りでお留守番。
冷蔵庫をあけ、ケーキの横に、夕飯のおかずをしまう。
だって帰ってくるのが遅いんだもん。
今日はふたりの記念日だから、お祝いしようと思って、いっぱいつくった。海鮮サラダとか、とりの唐揚げとか、野菜スープとか。ケーキだって、苺をいっぱいつかって桃とかキウイとかも間に入れて、とっても美味しそうにできたし、チョコプレートには「大好き」の文字まで浮かれてかいた。
もうすぐ9時になる。夕飯を食べるには遅い時間。
頑張って用意しただけに、銀ちゃんたちが返ってくるのがすごく楽しみだった。だから、こんな風にずっと待ってるのは結構辛い。「ちょっと行ってくらァ」なんて言ってわたしの頭をポンと触った銀ちゃんの手のぬくもりが思い出される。なにが「ちょっと」よ。
帰ってきたら拗ねてやるんだから。
わたしの機嫌を直すまで、ケーキはおあずけなんだから。
洗濯物も終わって、部屋もきれいに片付け終わって、お風呂も掃除して、さて、あとは何をしよう……。
リビング兼応接間につっ立ったまま、わたしはまた時計を見た。
もうすぐ九時。全然時間が進まない。
早く……帰ってこないかなー……。
ソファーに腰をおろして脱力する。机の上のリモコンに手を伸ばした時だった。
ガラリと、玄関の戸が開く音がした。
「よお、帰ったぜー」
なんでもないように、飄々とした銀ちゃんの声がした。
もう……遅すぎ。
いつもなら、出迎えに行くところだけど、今日のわたしは拗ねているんだ。だって、銀ちゃんのために、今日は、たのしみにして……
部屋に入って来た銀ちゃんを見て、わたしは唖然とした。
拗ねようとしていた気持ちなんて、すっとんで無くなった。
「おか……えり、なさい」
情けない、声しか出なかった。
こういう時はいっつも安心させてあげるように、元気に迎えようって、心に決めていたのに。
白い着流しには血がにじんでいて、ズボンは膝のところが破けている。血は拭いたみたいだけど、顔とか腕にも軽く怪我を負っている。