第1章 留守番(銀時/寂しい感じ)
銀ちゃんはわたしのすぐ後ろにずっといる。
「紗希」
銀ちゃんの声。
さあ、ふりむいて、ちゃんと笑っていってらっしゃいを言うんだ。
わたしは全然平気なんだから。
別件だし、これ以上怪我をすることもないし、明日の朝には帰ってくるって言っているんだし。
外から、女の人が顔をだした。
「あの……そろそろ」
わたしより少し年上くらいの、若い女の人。昼間、万事屋にきて、銀ちゃんたちを連れて行った、あの依頼人。銀ちゃんに、こんな怪我をさせるような依頼を持ちかけてきた依頼人。
睨まずには居られなかった。
泣くのを、我慢できずには居られなかった。
今日は、大切に思っていた記念日だったのに。
わたしから、銀ちゃんを奪っていくこの女を、憎まずには居られなかった。
その女性は怯えた表情を見せると、さっと顔をひっこめた。
「紗希……」
顔を見られないように、わたしは銀ちゃんの後ろに回り込んだ。背中を押す。
「早く行かないと。依頼人を待たせたらだめでしょう?」
あの人を助けに行く銀ちゃんが、わたしは好きなんだよ。悔しいし、わたし以外の誰のところにも行ってほしくないし、わたし以外の誰も見てほしくないよ。でも、わたしをおいて、誰かを助けに行っちゃう、そんな銀ちゃんだから、大好きになったんだから、しょうがない。
「引き留めてたのはわたしだけどね。はーい、じゃあ、お仕事がんば……」
突然振り向いた銀ちゃんに、気づいたら、ぎゅっと抱きしめられていた。
身動きもできないし、息もできない。
血の臭いがする。
銀ちゃんの胸からドクン、ドクンと鼓動が頬に伝わってくる。
「ごめんな」
ぎゅうっと強くだきしめられて、痛い。
「ケーキ……帰ってきたら食うから」
苦しいよ、銀ちゃん。
「いって、らっしゃい」
わたし、ちゃんと笑えてるかな?
銀ちゃんはわたしの目を見て言った。
「行ってきまーす」
変な顔。
笑ってるのに泣きそうじゃんか。
銀ちゃんたちを見送ってから、静かな万事屋で、わたしはまたひとりになった。