第1章 留守番(銀時/寂しい感じ)
きゅ~んと、定春の甘える声が聞こえた。玄関の外にいるらしい。神楽ちゃんも新八くんも外で待っているんだ。
銀ちゃんを放って、救急箱を持って、わたしは玄関へ行った。外を覗けば、やっぱり、定春と二人がいた。わたしに気付いた二人がちょっと怯んだ。
新八くんは目の上を切っていて、血が止まっていない。
「ふたりともおいで?」
玄関の灯りの中、新八くんの傷を見てあげる。高価な血止め薬を塗って、ガーゼで覆って、他の怪我にも包帯を巻いて、小さな傷には絆創膏を貼る。銀ちゃんには何をしたのか覚えてないけど、新八くんにはちゃんと手当てができた。
そしてわたしは、ちゃんと笑えている。
それなのに、新八くんは「スミマセン……」と申し訳なさそうに、表情を曇らせてばかり。神楽ちゃんは大丈夫みたい。気持ちも体も。「もうふさがったネ」と、穴のあいたチャイナ服の下を見せてくれた。定春も大丈夫。わたしにスリスリと鼻のあたりをこすりつけてくる。
銀ちゃんが、リビングから出てきた。
わたしは、やっぱり銀ちゃんの顔を見れそうにないみたい。
「みんな、夕飯は、食べたの?」
息が苦しいよ。
ちゃんと笑って見送ってあげないといけないのに。
ぎゅるるる~と神楽ちゃんのお腹が返事をした。
「ちょっとだけ待ってて? おにぎりなら、歩きながら食べられるでしょう?」
銀さんの脇を抜けて、わたしは台所に行った。
あんまり長く引き留めたらいけないって分かってる。早くしなくちゃ。
炊いてあったお米は少し冷めてしまったけれど、急いでそれを丸めていく。冷蔵庫に入れてあった、とりの唐揚げを中に入れて、大きめのおにぎりを作ってラップにくるんで3つ完成。神楽ちゃんにはちょっと足りないかもしれないけど。定春にはないけど、ごめんね。
はいっと、ひとりずつに押し付けるように手渡した。
しょうがない。
引き留めるわけにはいかないんだから。
こういう銀ちゃんを好きになったんだから。
神楽ちゃんと新八くんが、何か言いながら外へ出て行った。お礼を言われた気がして、わたしも返事した気がするけど、本当は違うことを言ったのかもしれない。
もうわかんない。