第3章 マテールの亡霊
目が覚めたとき、日中の地熱でまだ温かくて、きめの粗い砂地の上に倒れていた。
『っ…ん…アレン?』
建物の中のようだが、見渡す限り何もなく、空間自体かなり広く、教団の食堂くらいの面積はあるだろう。そのわりに高さはあまりなく、崩れ落ちたのか、低い天井には大穴が開いていて、わずかな光がそこから差し込み、時折パラパラと砂が落ちてくる。
さらに薄暗がりのなか目を凝らすと、箱のようだと思っていたが、奥には三つの通路があり、どこかへつながっているようだ。
とりあえず、もう少し調べて見ようとユウリは身体に力を入れた。
―――ズキ…ッ
『っ…う、あぁ…ッ』
しかしその瞬間、ユウリは心臓部に走る鈍痛に動きを止めた。どうやらアレンを庇ったとき、変な庇い方をしてしまった様だ。
―――ザリ…
『!? …っ!!』
ふいに、通路の奥から砂を踏むような音がした。耳を澄ませば、足音がだんだん大きくなってきているのが分かる。
(『っ…こっちにくる』)
神田やアレンかもしれないが、それよりもアクマである可能性の方が十分にありうる。しかし、逃げようにも、今はとても動ける様な状態では無い。
『っ…』
あまり賢いやり方ではないが、痛む身体を無視し、イノセンスを発動し応戦の姿勢をとる。相手から見えないよう暗がりまで移動し、身構える。向かってくるものは、天井からのわずかな光でぼんやりと輪郭が分かるほど、もうすぐそこまできていた。