第3章 マテールの亡霊
『…あ、なたが人形だったのね…っ…」
唄が終わり、唄っていた人形、【ララ】に聞く。
話によれば、老人、【グゾル】はララをとられたくない思いから、自らを人形だと名乗ったらしい。
グゾルは幼い頃、その醜さゆえにこのマテールに捨てられて以来ずっと、ララと共に生きてきたという。
気持ち悪いと蔑まれ、誰も優しくしてくれなかった自分に、初めて唄を歌ってくれたララ。
化け物と拒絶され、誰も受け入れてくれなかった自分に、初めて唄を歌わせてくれたグゾル。
互いが互いを必要としグゾルはララを愛している。
だが、出会ってから八十年。グゾルはもうすぐ動かなくなる、とララは言う。
ララ「…お願いっ…この心臓はあなた達にあげていいから…っ 最後まで一緒にいさせて…!」
ただ主が死ぬまで側に居たいという、人形の小さな願い。
神田「…ダメだ…っ」
しかし、それを断ち切る無情な声がした。
『!…ユ、ゥ…!! …ッ…」
神田「!? ユウリっ!! …っ…!」
慌てて駆け寄ろうとするが、突然の心臓の痛みに、その場に座り込んでしまった。
神田は、無理に身体を起こし声を掛けるも、話しはそのまま続ける。
神田「…その老人が死ぬまで待てだと?この状況でそんな願いは聞いてられない。今すぐその人形の心臓をとれ!」
止血もままならない容態で、息も絶え絶えに神田が言う。
アレンの表情は、苦悩に歪んでいた。
アレン「…ごめん…僕は、取りたくない。」
神田「…っ!」
『…ユ、ダメっ… ユウ―――っ』
―――バシッ
アレンが出した結論に、ユウリの静止も虚しく、神田が枕として敷かれていたアレンの団服を投げつけた。
神田「…そのコートは怪我人の枕にするもんじゃねぇんだよ…っ エクソシストが着るものだ!!」
ただ一緒に最後を迎えたいというララの願いを叶えてやりたい―。
しかし、ローズクロスを胸に掲げるのであれば、エクソシストの役目を果たさなければならない。