第1章 彼や彼との出会いかた
「許さないわ。 紗希には二度と近づけないでください」
副長の部屋。新入隊士の神崎花梨が言い放つ。勢いで膝立ちになり、ポニーテールに結った緋色の髪がさっと揺れた。鬼副長の名が通る土方を前に、一歩も引かない堂々たるこの態度。なかなかの気骨の持ち主だ。
反対に紗希は、正座をして小さく縮こまっている。幼さの残るかわいらしい顔。品のいい、お嬢さんという感じ。なかなか、お目にかかれない上玉。
立ったまま花梨が言う。
「副長、あたしたちは仕事をするためにここに来たんです。上司からセクハラを受けるために来たんじゃありません。今後このようなことがあれば切腹を言い渡すと今ここで約束してください」
声がよく通るためか、何人かの隊士が襖の隙間からこちらの部屋の様子をうかがっている。
「よしわかった。じゃ、じゃあ、本人同士の話し合いで解決しよう、当事者同士の。俺が調停するから、おまえは一度、席を外してだな、これで――」
「できません。こんなところに紗希を残して行けって言うんですか。沖田隊長のところになんて置いて行ったら、また何をされるかわかったもんじゃないわ」
「……おい総悟」
「知りゃしませんよ。だいたい、こんな隙だらけの女、ここでやっていかれるとは思えねーなァ」
女である身で真選組に入隊してこようなんて、どれほどのものかと思ったら、ただのメスブタだった。戦場では一瞬の気の緩みが命取りにつながる。それなのに紗希ときたら、一瞬どころか常に気が緩みっぱなし。常に隙だらけ。おまけに自分の身が危険に曝されているっていうのに、拘束を解いて逃げるどころか、ろくな抵抗もできずに、涙目で煽ってくる。こんな女、せいぜい性玩具にしかならない。
「紗希は隊士じゃないのよ!」
花梨が紗希を隠すように片手を広げて言った。
「ん、そーなんですかい?」
土方の方を見れば、ああ、と頷いた。
「城田由紀の付き人だ」
「ああ、あのべっぴんさんの……」