第1章 彼や彼との出会いかた
声を出して、懇願することしかできない。バタバタ必死で足を動かしてみても、身体をよじろうとしても、全く効果はなくて……。
「やっ――んん、んー!」
声をあげた瞬間に、なにか口の中につっこまれた。ぐいぐいと、いっぱいに。布みたいな。ケホッケホッと、咽(むせ)る。布を吐き出すこともできない。息が苦しい。両手を掴まれて、頭の上で押さえつけられた。彼は片手なのに。敵わない。
「んんー! んんんんッ!」
やめてよ! と叫びたくても、くぐもった声しか出ない。
涙が出ててきた。
なんで、わたし、こんなことされてるの……?
大きな手が、紗希の頬にそっと添えられた。ゆっくりとほほを撫でる。まっすぐ見下ろす彼の瞳。そこにある怪しげな光に、ゾクリと背筋が震えた。
「いい顔するじゃねーかァ。もっと、鳴きな」
いかにも愉しそうに、彼は口角を上げる。
頬に添えていた手が、首を、鎖骨を、スーっとなぞっていく。
紗希はぎゅっと、思わず目をつむった。
溜まっていた涙が流れ落ちる。
その時。
スパーン! と、勢いよく襖が開いた。薄暗かった部屋が明るくなる。
「いったいそこで、何をしていらっしゃるんです? 沖田隊長」
仁王立ちの花梨ちゃんがそこにいた。
これは、紗希が真選組屯所に来てから、二時間後の出来事だった。