第4章 無茶な頑張りかた
花梨は道場に戻り、紗希はしばらく医務室にひとり残される。切り離されたように、声や音など人の気配は遠くに感じる。静かだ。さすがは医務室。
ざっざっと、外を何人かの足音が通り過ぎていく。膜がかかったように遠くからぼんわりと声が聞こえてきた。
「オレやっぱ怖ぇーわ。怪我させちゃいそうであぶねーもん」
「ちょっとぶつかっただけで転ばせちまうもんな。力加減もわかんねーし」
紗希のことを話しているのだとわかった。すっと、心臓のあたりが冷えていく。
やっぱりそうだよね、わたしは邪魔か。
花梨ちゃんなら、手加減なんてされる必要もないから、ていうか皆より強いみたいだし、皆と対等に、扱ってもらえる。でも、わたしは……。
早く仕事に戻らなければと思う反面、もう皆のところに行きたくない気持ちが強くなる。呼吸もだいぶ落ち着いてきたけれど、もう少し、しらばっくれてここにいようか。花梨が迎えに来てくれるまでは、具合が悪くて、寝てしまったふりをしようか。
紗希は布団を被って、目を閉じた。布団の中はやわらかくて、あたたかい。
逃げてしまおうか。諦めて、やめてしまおうか。
一瞬、そんなことを考えた。
でも。
ふーっと大きく息を吸って、紗希は布団から抜け出した。