第4章 無茶な頑張りかた
横から「おいおい見ろよ」と、興味ありげにざわつく声が聞こえてきた。
紗希と同時期に真選組に入った隊士は、初日からバシバシ稽古を積んでいる。鍛錬はほとんど自主的に行うもの。怠れば、仕事上、命に関わる場合もあるから。雑務が多かった紗希は、仕事に慣れるまで先送りにしてしまっていたが。
沖田が壁側に立っているので、紗希はみんなのいる方には背を向けているからよくわからないけれど、少なからず、視線を浴びているような気がする。
「全くド素人ってわけじゃねーんだろ。とりあえず構えな」
「……はい」
消え入りそうな返事を返し、泣きそうになりながらも、紗希は剣の柄を握った。足を引き、切っ先を、沖田の喉元にまっすぐ向ける。沖田は竹刀の先でつつくように、紗希の肘を少々持ち上げ、切っ先を少し下げた。
何だか本当に上官という感じがして、怖い。
「じゃあ、テキトーにあしらうから、テキトーに打ち込んでみな」
そう言われて、紗希はそっと面を打ちに行く。
あれ、あれれ……?
一向に防ごうとしない沖田。このままでは、額にパシンと竹刀の先が当たってしまう。いいのだろうか……。
おそるおそる振り下ろした剣の先が、コツンと沖田の額に当たった。パチリと一度瞬きをする沖田。
次の瞬間。
パシッ! バン!
「あうっ……‼」
目の前に星が散った。
突然の衝撃に、思わず両手で額を抑える。
「痛った……」
「何やってんでィ。ほら、どんどん行くぜィ」
「え、え? きゃっ!」
何が起きているのかわからないまま、沖田が竹刀を振り上げる。
「ちょっと、待って!」
紗希の懇願もむなしく、沖田の竹刀は容赦なく紗希の体を叩いた。頭、腕、腹、太もも、再び額。防ごうと構えた竹刀は押されてほとんど意味をなさない。腕力の差がありすぎる。ついには、弾き飛ばされ床に落ちる。
「痛いよっ!」
「悔しかったらやり返してみなせぇ」