第4章 無茶な頑張りかた
真選組に入った以上、武の道は避けて通れないものであり、現場に出ることのない内勤であっても、剣の鍛錬は欠かさない。
紗希も例外ではない。
入隊して一週間が経ち、先日の傘の件もあってか、紗希にも稽古に参加するよう声がかかった。
朝八時。慣れない稽古着を着て道場へ向かうと、そこでは既に、何人かの隊士たちが向き合い、剣を交えていた。花梨や沖田の姿も見られる。
みんなすごい……。
大きな声に、竹刀のぶつかり合う音。足が床を踏み鳴らす重低音。
紗希の不安は増していく。
わたしはここに居ていいんだろうか。みんなの邪魔をしてしまうんじゃないか……。
「邪魔。どきな」
降ってきた声は明らかに紗希に向けられたもので。すみませんと後ろへ一歩退くと、ゴチンと後頭部を固いものにぶつけた。
「痛っ……!」
「なにやってんでィ」
馬鹿にして正面から見下ろしていたのは、沖田だった。沖田は手を伸ばすと、紗希の頭越しに壁に掛けられていた竹刀を取った。そのまま柄を紗希の頭にのせて一言。
「ちっちぇ」
思わずむっとしてしまう。が、沖田は手に取った竹刀を紗希に渡してくれた。所在になさげにしていた紗希を気にかけてくれたのかもしれない。なんと不器用で腹立たしい出迎え方だろう。彼らしいといえば、らしいのかもしれないけれど。
遠くから見ていたら沖田隊長だって、小柄な方かなとか思っていたのに。
もうとっくに分かっていても良さそうだったことを、今更ながらに自覚した。皆大きいし、がっしりしている。不安と遠慮がさらに大きくなる。ただでさえ小柄な自分が、稽古を積んだところで、この人たちと同じことができるようになるのだろうか、と。体力もないし。
「見てやらァ」
そっけなく言うと、沖田は奥へすたすたと歩いて行ってしまう。
見てやる……どういうこと? ついて行ったほうがいいの?
紗希は両手で竹刀を握りしめたまま、沖田の後に続いた。入口から離れた隅まで行くと、沖田が振り返った。
紗希がよほど不安そうな顔をしていたのか、沖田が軽く呆れたようにため息をついたように見えた。
「別に気負わなくていーぜィ。できないのわかってるから」