第4章 無茶な頑張りかた
「え、あの、ちょっと……」
紗希の帰る道とは逆方向。
確かに回り道してもいいとは言ったけど、有無を言わせないような強い力で掴まれて、怖い気持ちが先に立つ。
「待って……!」
一旦止まってもらおうと、ひっぱる力に逆らったり振り解こうとしたりを試みてみるものの、頑なに放そうとしてくれない。
「どこまで行くの……?」
ついて行くしかないのだろうか。話をする気も、耳を貸す気もないのだろうか。
この人おかしいのかな。ついてっちゃって大丈夫なのかな……。
「あー! 紗希ちゃんじゃん! やっほー! 会えるなんてラッキー」
突然あらぬ方向から異様に明るい声が飛んできた。隊服姿の戸田が、道の反対側から手を振っている。それに振り返る紗希を気遣うこともなく、男はぐいぐい歩を進める。
「ねえねえ誰そいつー!」
傘もささずに戸田が駆け寄ってくる。彼とは屯所内でもよく話すようになった。沖田も花梨もいない道場では、たいてい彼が隣にいてくれる。好意を抱いてくれているようで、ことあるごとにちゃらちゃらした文句で口説いてくる。多少うっとうしいところもある彼が、今日はこの瞬間に居合せてくれたことをありがたく感じる。
「誰?」
駆け寄ってきた戸田が、嫉妬するかのように紗希に問う。男が大股に歩き続けるため、紗希はほとんど小走りになりながら、ひっぱられる。
「えっと……」
言葉に詰まってしまった。なんと言っていいのかわからない。「ひゃっ」と声をあげてしまったのは、転びそうになったからだ。困っている紗希の表情や強引に腕を引いて歩き続ける男の様子を見て、戸田はさらに怖い調子で言った。
「止まれよ。話してんだろ」
戸田が男の腕を掴みあげると、紗希の手首は解放された。バサっと腕を振り切って、男は背を向け足早に去っていく。紗希の傘を持ち去ってしまった。
「何だアイツ。紗希ちゃん知り合いなの?」
「ううん、知り合いっていうか……」
「何やってんだ」
不意に路地から出てきたのは沖田だった。そういえば戸田は一番隊。今日は沖田と組んでいたらしい。