第3章 仕事のしかた
「紗希ちゃーん! オレにもあの薬、ちょうだーい」
「はーい」
「ホントに効くよね。すごい。どこで買ってるの?」
「わたしの故郷からもってきたもので」
茶色の小瓶に入った塗り薬。傷によく効くからと、隊士たちが次々に紗希の元を訪れる。先日の将軍家護衛で起きた乱戦で、真選組からも負傷者が出た。小さな傷を見せてくれた隊士のひとりに、紗希がその塗り薬を提供したところ、たちどころに傷が治ったらしい。評判を聞いて試しに来る隊士からも、直りが驚くほど早い、と口コミが広がった。
「ふあ~あ」
あくび?
部屋の外。縁側からだろうか。誰かのあくびが聞こえた。
午後の気候は暖かい。今日は風もなく、天気もいい。
日向ぼっこでもするかのように、ごろんと横になっていたのは……
「沖田隊長?! なにしてるんですか、1番隊は今日は……」
「ああ? なーに言ってんでい。おめーだってサボりのくせに」
「わたしはサボってなんて……!」
……ないけど……。サボって、るのとおんなじことかも……。
乱戦の後、紗希はしばらく暇を与えられていた。気が付くと手が震え、冷や汗をかき、落ち着かずに挙動不審のようになっていたから。あの悲惨な光景は、なかなか脳裏を離れない。なのに同じ現場にいたはずの、真選組の誰もが既に普通の生活を取り戻している。
紗希だけが、その時の恐怖を引きずっていて。
置いて行かれる。
みんなにも。花梨ちゃんにも。由紀さんにも。
そんなのは嫌だと思い立ってからは、気持ちを落ち着けられるようになった。あの光景を思い出すことはあっても、長くは考えまいと、思考を変えることができている。
二日たった今も、まだ本調子じゃないだろうからって、局長が、明日までお休みをくれているのだけれど。
「沖田隊長もどうですか、塗り薬」
「何か入ってんじゃねえだろーなァ」
「なにか?」
「随分と都合がいい薬があるもんだと思ってねィ」
「何も入ってないですよ、変なものは……」
普通の傷薬だ。本当に、誰でも手に入る、なんの変哲もない。