第3章 仕事のしかた
「見なくていい。今日見たことは全部忘れろ」
そうだ。紗希は、こんな景色見なくていい。今までだってずっと、きれいな物しか見て来なかった、温室育ちのお嬢なんだから。きれいなまんまでいたらいい。汚れる必要なんてない。汚れないでほしい。ここまできれいなものは、そうそう無いのだから。
先日、銀時に連れられていった時にも思った。あのまま戻って来なければ、それでもいい。紗希にはもっと、違う生き方が似合う。
紗希が、目隠しを首元へずらした。泣きそうな瞳が見上げてくる。そして、沖田の袖を掴んで立ち上がろうとする。腰が抜けていて、どうしようもないのに。震える手は、自分の体重を引っ張り上げるどころか、まともに袖を握ることすらできていない。
そうこうしている間に、また気分が悪くなったらしく、再び、吐く。
沖田は目隠しを再び縛った。今度はもっときつく。
「見なくていい」
「でも……」
「たのむから」
気づいたら、抱きしめていた。腕の中にすっぽり収まってフィットする。丁度良いサイズ。壊したくないんだ。汚したくないんだ。
「今回は、もう、帰るぜィ」
紗希は、もう反抗してこなかった。
背負って、立ちあがる。
ずいぶん軽い……。本当に、頼りない重さだ。
「いいか、紗希。オレ達の世界はこんなだ。おまえの居場所じゃねえってことは、よく分かったろ。これからは、オレたちとは関わらねえように生きな。わざわざ屯所で働かなくったって、江戸にいりゃ、花梨たちには会えんだろぃ」
そう。ここは紗希の居場所じゃない。おめーみてぇな奴は、そうやって普通に生活してりゃあいいんだ……。