第3章 仕事のしかた
よく見りゃ怪我、してんじゃねーか……。
流れ弾が掠ったのか、左の腕の、肉がえぐれて血が流れている。そんなに深い傷じゃないが、痕が残るかもしれない。
「他は」
ぽろぽろと涙を流して見上げてくる紗希。なかなか、好みのタイプだったんだ。だからこそ……。
「痛てーとこは?」
「ごめんなさい」
うわずった声で、紗希が言った。
ごめんなさい?
なんで謝られたのか、理解不能だった。
めずらしくやさしめの口調で声をかけてやっただけなのに。
「他に怪我はねーのか?」
コクンと紗希はうなずいた。
よく見たら、こいつら、紗希を人質にとったやつらか。瞬時に、迷わずオレが斬り捨てた……。ああ、だから。
「おめーが人質にとられよーがとられまいが、オレァこいつらは斬ってたぜい。どっちみち、殺ったのはオレだ。将軍暗殺企てておいて、生きてかえろーなんて、こいつらも考えちゃいねーよ」
何度も苦しそうに息を詰める、紗希。
辺りには死体や肉片が転がり、臓物や血が飛び散っている。
「吐くなら吐いとけ。ここでいいから」
背中をさすってやれば、顔を背けて紗希は吐いた。ろくに物を食べていなかったのか、それとももう既にどこかにぶちまけた後なのか、吐いて出るのは胃液ばかり。いっそ吐くものがあれば楽なのに。しかもこんな血だらけの、死体だらけの空間じゃ、気分は一向に良くならないだろう。
震えている小柄な体。
ひとりじゃここから抜け出すこともできないんだ。
いったん落ち着いたところで、沖田は自分の首の白いスカーフを取り、紗希の目を覆って額を縛った。
紗希は、余計に戸惑い、怖がる。
「心配すんな。これ以上、おめーは見なくていい。どーせ立てねえんだろ。おぶってやるから」
「立てます」
震える声で、紗希が言った。
「わたしも見ます。自分で歩けます」
とてもそんなことができる風には見えない。自分がどうなっているのか、わかっていないのか。
結び目を解こうとするが、震える手は全く力が入らないらしい。目隠しをずらすこともできないようだ。