第3章 仕事のしかた
銃声がとぎれた瞬間、壁に手をつき、エレベーターの外に出た。膝が震えて思うように歩けない。進めない。
ヒトにぶつかる。
目の前にちらりと刀が光った。一瞬冷たいその刃が肌にあたったような気がした。逃げられずに再びその場にしゃがみ込む。突然左手を掴まれ、グイッと強い力で引っ張られた。腕が抜けるかと思った。よろけて転びそうになる。
「なにやってんだテメーは!」
耳元で叫んだのは沖田の声。紗希を引き寄せたのは沖田だった。
「なんで降りてきた!」
怒鳴りつけて、紗希を背後に押しやる。
「あの……」
「離れんじゃねーぞ!」
沖田は、いつも最前線にいるはずだった。ううん。いるんだ。ここは最前線。一番危ないところに、紗希はのこのこやってきてしまったんだ。
ぐいっと、再び強く引っぱられる。
「こっちだ!」
半ば引きずられるようにして、走る。
足がもつれて、思うように動けない。ついて行けずに、派手にすっ転んだ。だって手だけぐいぐい引っ張られるから。体がついて行ってないのに。
「なにやってんでい!」
怒鳴られる。こんなに怖い沖田はじめてだ。
「動くんじゃねえ」
転んだ紗希を立ち上がらようとしたのは沖田ではなかった。
冷たい光を放つ刀身が目の前にある。
髪の毛を引っ張りあげられる。
痛い……!
「ぐあっ」
後ろからうめき声がした。気づいたら、もう拘束が解かれていた。沖田に、強引に立たされる。とにかくすごい力で引っ張られる。
「中にいろ!」
突き飛ばされるようにして投げ込まれたその暗闇が、押入れの中だと理解したのに、どれくらい時間がかかったんだろう。投げ込まれた拍子に頭をぶつけていたらしく、しばらく意識がもうろうとしていた。
気が動転してしまって、とにかく怖い。
ものすごくたくさんの大きな音が聞こえてくる。
刀同士のぶつかる音。うめき声と悲鳴。銃声。何なのかもわからないドンドンという太鼓のような音。
身体なんて動かないし、息もできない。
目をつむって、紗希はぎゅっと小さく縮こまっていた。