第3章 仕事のしかた
刀のぶつかり合う甲高い音があちこちから聞こえる。
煙が上がって、視界がわるい。
焦げた臭いが鼻を突く。周りの様子を探れば……、エレベーターに乗り込んできていたガラの悪い浪士たちが、足元に倒れてもぞもぞと動いていた。うめき声をあげながら。
息が詰まる。
いつ命を落としてもおかしくない状況だった。
とんでもないところに出てきてしまった。浪士たちの襲撃を受け、戦闘の真最中だったんだ。
部屋に戻らなくちゃ……!
紗希は必死に「閉」のボタンを何度も押した。けれどボタンは反応しない。壊れたのだとわかっても、恐怖のせいで、この場から逃れたいために扉を閉めるボタンを何度も何度も押す。
むくりと一人の浪士が起き上がった。紗希は恐怖で再び床に蹲った。
浪士たちを乗せたまま上階に行くわけにはかない。将軍やそよ姫がいるかもしれない。しかも先ほどの激しい衝撃でエレベーターは警告音のようなブザーが鳴りっぱなしだ。まともに動くとは思えない。
ようやく頭が働きだす。
ドカーン! とすぐ近くで再び爆発音のような、耳をつんざく地響きと破壊の音が鳴る。
悲鳴も、刀のぶつかり合う音も。
人の斬られる音も分かる。
腕を流れる血に触れて、手がぬるぬるする。
怖くて、膝がガクガクする。
部屋に戻らなきゃ……!
そうは思うものの、身体に力が入らない。立てない。怖い。いつ弾丸が飛んでくるかわからない。いつ刀で身を切られるかわからない。
廊下にもあちこち人が転がっている。
「ぐはっ!」
ふっとんできた男の人が、目の前に転がり落ちてきた。
気が動転しているのと、煙で視界が悪いのとで、まわりの様子がわからない。
こわい。
煙の向こうに階段が見える。
あそこまで、行こう。
一気に駆け上って部屋に帰ろう。
それだけ思いつくと他には何も考えることができずに、紗希はなんとか腰を上げた。