第2章 デートのしかた
「由紀さんもよく考えたものよね。アンタを独り置いて行くのに、確かに真選組なら安心だし」
立ち上がる、花梨。
「もう行く?」
「あたしもお昼取ってくる。ちょっと待ってて。食べてていいから」
ニッと笑って部屋を出て行く。紗希よりも数倍動いてるはずなのに、花梨はあんまり体調をくずさない。
ふと、前触れもなくスーッと襖が空いた。顔を出したのは沖田さん。
お茶碗を持ったまま、思わず固まった。寒気と一緒に、恐怖がぞわぞわと背中に上ってくる。
それも仕方ない。屯所に来てからというもの、沖田からは散々な仕打ちを受けているのだから。あの後も2回、襲われそうになったし、なんの目的があってかわからないけど、口と鼻を抑えられてどれくらい息が持つか計られたり、寝ているときに、思いっきり体重をかけて乗ってきて押しつぶそうとしてきたり。
「なんでい。様子見に来てみりゃ、存外元気そうじゃねえか」
今度は一体何をされるんだろう。働かない頭で、必死に回避の方法を考える。
「動けそうならちょいとやってもらいてぇ事があるんだけど」
な、なんだろう。いつもだったら即危害を加えてくるのに、部屋に入ってくるでもなく、にやりと不敵な笑みを浮かべている。
「か、構いませんけど……変なことだったらお断りしますよ」
一日奴隷になれとか、服を脱げとか、檻に入れとか。パワハラもセクハラも越えた嫌がらせの数々にはもう耐えられそうにない。
「動けるようなら、仕度して、オレの部屋に来なせぇ」
部屋の外から花梨の声がする。「ちょっと沖田隊長! なにしてんのよ!」と、かけてくる足音。
「おっと。このこたァ花梨には内緒だぜィ」
それだけ言うと、逃げるように去って行った。
「もう! 紗希! 沖田隊長に何かされた? 何か言われた?」
「え、ちょっと、手伝ってほしいことがあるんだって」
「まったくもう。お願いだから、仕事以外であの人たちに関わらないでよね!」
あの人たちとは真選組の隊士全員をさしている。
何度も言うけど、一緒に住んでいる以上、「話すな」とか「近づくな」とかは無理な話。