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紗希物語【銀魂】

第1章 彼や彼との出会いかた


 逃げようにも、人の間に挟まれて、動きようがない。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――」

 すぐ後ろ。耳元に荒い息がかかる。

 嫌悪感に、ビクン、と体が跳ねた。

 やァ……。

 どうしよ、まわりの人に、気づかれ――

「ハァ、ハァ、ネェ、オジョウチャン」

 息が、耳元で囁いてきた。

 悪寒がして、ぞくぞくと震えあがってしまった。

「ツギノエキデ、イッショニオリナイ? イイコトシテアゲルカラサァ――」

 太もものあたり。着物の間に手を入れて、中を探ろうとしてくる。

 やだやだ……! どうしよ……。

 そのとき。

 うぐっ、というような、呻き声が聞こえた。すぐうしろ。おしりを触っていたその人の声だと思われる。その瞬間、手が離れたから。

「うあっ、痛、いって! 悪かったよ、悪かったって!」

 男の声がそう言った。電車が減速して、駅についた。涙を拭いて、人の動きに合わせて振り返ってみた。一回空いたスペースにも、すぐにたくさん人が乗り込んできて、誰だったのか、全然わかんない。

「わっ」

 いきなり帯を引っ張られて、バランスを崩した。転んじゃう、と思ったら、尻もちをついた先は座席の上だ。目の前にいたのは、目立つ、銀色の髪をした青年。この人が紗希を引っぱって座席に座らせてくれたのだ。ほとんど放り込むような雑な扱いだったけれど。

 声をかけようとすると、彼はひょいっと右手をあげた。紗希は少なからず動揺していて、小さく頭を下げることしかできなかった。

 次の駅で青い半被を着た集団が降りて行くと、電車の中はだいぶ余裕ができた。その次の駅は歌舞伎町。ここで降りる予定。電車が止まり、ドアが開くと、銀髪の青年も降りて行く。その後ろに続くように、紗希もホームに降り立った。
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