第1章 彼や彼との出会いかた
副長たちから解放されたあと、紗希は支度を整え、屯所を出た。
花梨は、まだいろいろ言っていたけど。
こんな街中の電車に乗るなんて、初めての経験だった。
昼間だというのに電車の中にはたくさんの人が乗っている。なにかイベントでもあるのか、集団で青い半被(はっぴ)を着た人たちがまとまっているのだ。他にも、アイドルやマンガのキャラクターが印刷されたTシャツや、グッズを身につけている人。きらきらと光りもので身を飾った若者。きっちりと化粧をしたおばさん。営業まわりらしいスーツ姿のサラリーマンなど。
いつもこんなに混み合っているんだろうか。
紗希は、人に流されて、反対側のドア横の壁まで押されてぶつかった。両手で持った紙袋が足にあたる。潰さないように気をつけないと。駅までの道すがら、ケーキ屋さんで買ったものだ。
行きも帰りも時間は指定されていないから、今日はわりと自由に動ける。帰りに少し街を見て歩こうか。そんなことを考えて、少し浮かれていた。
でも。
電車にのったことを、まさかこんなに後悔することになるなんて、 思いもしなかった。
次の駅で、さらに人が乗り込んできた。おかげで身動きが取れないほどに電車の中は込み合ってくる。
もう無理だって! そんなに押されても、これ以上詰められないって……! つぶれちゃう、つぶれちゃうよお……。
満員電車は、テレビとかで見たことあったけど、中がこんなに大変なことになってたなんて知らなかった。
それに。
「…………!」
さっきまで、押しつけるように、当たっていたのが、確実に……さわってきている。後ろの人が……おしりに手を当てきて、確かめるように、ゆっくりと。
ぞくぞくと悪寒が全身を這いあがた。
腰を抱くように手をまわしてきて、おしりにぐいぐいと押し当ててくるのは硬い肉の塊。太ももやおしりを這うように手が撫でまわす。
紗希はぎゅっと目を閉じ、感覚を閉ざそうと身を縮めた。
いやだ、いやだ……。
何なの今日は。職場では、初対面の人に服を脱がされかけるし、電車に乗ったら痴漢に遇うなんて。都会だから? よくあることなの? みんなどうやって切り抜けてるの? どうしたらいいの。