第35章 『錬金術』 3
「ビーネ。ボクもどうすればいいか分からない。我がままだけど、ビーネには生きていて欲しい。でも、もし、「賢者の石」を使う事に抵抗が無いなら……ごめん、何言ってるんだろうボク。」
「「賢者の石」はもう国内にない。唯一持っているのはリンだ。僕だってもう一度「賢者の石」を作るのは嫌だよ。」
ビーネの命と引き換えに真理の扉の中からジプシーの仲間を取り戻すか。
真理の扉の中にジプシーの仲間を置いたまま、ビーネが生きるか。
…でも、真理の扉の中で10年もの間生き続ける事ができるのだろうか?
アルフォンスは俺と兄弟で、母親を錬成する時に一緒に血の情報を混ぜた、だからきっと「共有」する事が出来て、生きている事が出来た。
食事だって睡眠だって俺は人一倍とっていた。
それはアルフォンスのため。
でも、ビーネは普通の食事と睡眠だけ。
仲間と「共有」するきっかけが無い。
「エド、難しい顔してるよ。」
「難しい顔にもなる。お前の人体錬成の時と、俺達の人体錬成の時とじゃ状況が違うし、なにより」
「なにより。アルフォンスとエドワードのように僕と仲間じゃ兄弟でもないし、仲間の魂はこちらにある訳ではない。考えなかった訳じゃない。」
真理の扉の中で生きているかどうかはわからない。
「きっと、この錬金術は賭けだ。」
ビーネはそう言って家の中に入って行ったエリシアちゃんを追うように、玄関を見つめる。
「ちゃんと答えは出してきてはいるんだよ。母さんとエリシアを二人っきりにさせちゃいけない。父さんは僕がいつかこの事で死んでしまうかもしれないと考えてたんだと思う。」
ヒューズ中佐はビーネに「愛してる」と伝えていた。
でも、それは……ビーネにジプシーを消した事の罪を一生背負わせ、枷のように家族といることを強制するようなこと。
「生きろ」その言葉が今のビーネをどれだけ悩ませることになるか。
「ビーネ。ボク…ボクが言うのもあれだけど、死なないでほしい!でも、仲間も助かってほしい!何て言っていいか分からないけどっ!でもっ!」
「アル。」
アルの言いたい事もすごくわかる。
ギリリ。と拳を握るアルフォンスを止め、ビーネを見つめる。