第34章 『錬金術』 2
「父さん……。」
ここにいれば、また父さんの声が聞こえるんじゃないかと思った。
『笑え。お前は笑っている方がいい。』
『忘れるなよ。俺はお前を愛してる。』
じんわりと視界が歪んでくる。
瞼を閉じれば、頬を伝っていく温かな涙。
そう言えば、父さんは逝く時笑っていたな。
「父さん。僕は笑っていられるだろうか。」
父さんみたいに強い男になりたい。
カッコよくなりたい。
もっと、父さんと話がしたかった。
一緒に仕事がしたかったなぁ…。
ときどき一緒になる帰り道、実はすごく楽しみにしていたんだ。
「ぅっく…」
ぼろぼろと流れる涙は床にしみを作る。
どれくらいそうしていただろう。
ビーネ。と僕を呼ぶ声が聞こえてようやく顔を上げた。
振り返らなくてもわかる。
「エド。」
「お、今回は酷い顔してねぇな。」
随分だな。
「これからどうしようか考えてただけだよ。」
「泣いてたんだろ?」
「ちがう。」
涙はもう乾いていた。
きっと目も赤くは無いだろう。
もう、ここに未練なんか無い。
来た道をエドワードと一緒に戻りながら、彼の腕の中にいる小さな生物を見つめた。
「どうするの?セリム。」
「夫人にちゃんと話をして、渡そうと思う。」
「…そっか。」
待たせてしまった4人と共にまた上へと登っていく。
地上は先ほどより活気が戻ってきているようで、慌しくけが人の手当てに追われる人たちでドタバタしていた。
僕も上に戻るなり中央兵に呼びとめられ、彼らの上司達が捕まってしまったので指示を仰ぎたい。と、捕まってしまった。
この国は、変わる事が出来たのだろうか。
・・・