第29章 『再・分解』 4
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「スカー。鋼の。ここは私に預けろ。ハニーを連れて行け。こいつは私の獲物だ。」
ロイがそう言った。
手が震えた。
目の前の父さんに手を伸ばす事も声をかける事もできなかった。
「ビーネ。行くぞ。」
足が地面に張り付いたように動かない。
身体のすべての機能が停止してしまったようだった。
「スカー。頼めるか。」
「あぁ。」
ぐい。と体が浮き上がったかと思ったら、スカーの肩に担ぎあげられていた。
「中尉…本当に二人だけで大丈夫か?」
「…なんとかしてみせるわ。ダメならその時は……行って。エドワード君。」
リザさん……。
「おら、行くぞ。大佐なら大丈夫だ。さっきの火力見たろ?ホムンクルスなんざひとひねりにしてくれるって。」
スカーが歩き始めてしまい、リザさんもロイも見えなくなった。
「…勝敗が問題なんじゃねぇんだよ。」
「なんのこった?」
勝敗が問題じゃない。
そう言ったエドの言葉が僕の心に突き刺さった。
先に進むと僕を担いだままじゃ通ることの難しそうな場所が見えた。
「スカー。」
「…降ろすぞ。」
なんとも言えない沈黙。
言いたい事があるのに言葉が出てこない感じ。
先ほどまでいた広場の方から地鳴りが聞こえて来る。
「スカー。ちょっといいか?」
エドが先を行こうとしていたスカーを呼びとめた。
「ビーネも。」
言葉が詰まって出てこないような顔をしているエドワード。
数秒その顔色を窺ったスカーが口を開いた。
「………焔の錬金術師の事か。」
コクリと頷くエドワード。
脳裏によみがえったのは先ほどのロイの顔。
怒り憎しみ…それらが詰まったコワイ顔をしていた。
「…かつて復讐にかられた者として己れにはよくわかる。あの男。あのままでは、自らの炎で己の心も焼き尽くすだろう。」
……復讐。
ロイは父さんを殺したエンヴィーを殺そうとしている。
でも、僕はどうしてあの時エンヴィーを心から憎いとは思わなかったのだろう。
「……愛してる。」
「え?」
「あの時、父さんは僕に愛してると言ったんだ。」
・・・