第29章 『再・分解』 4
「笑え。お前は笑っている方がいい。」
足元に段々と広がっていく血だまりに反するように、中佐は笑顔だ。
ビーネの顔は蒼白。
「とうさん」
「忘れるなよ。俺はお前を愛してる。」
あいしてる。
力強い声だった。
そこからぱたりと動かなくなる中佐。
「あは。あははははっ!守れなかったねぇ!」
「……だまれ。」
「愛してるって!くっせー!愛してる!あいしてる!」
「だまれ。」
ゆっくり、ゆっくりと動くビーネの両腕。
ぽん。と合わさった両の掌は、ビーネに背を向けたままのエンヴィーの背に乗せられた。
「テメーに愛してるの意味がわかんのかっ!!あぁ?!」
ドン!とエンヴィーを貫いたのは無数の氷柱。
俺たちを避け、360°全方位からありとあらゆる角度で剣のように鋭い氷柱がエンヴィーを貫いていた。
「げっほ…逆上?みっともないなぁ。」
ビーネは動かない。
「だいたい。あんたの本当の父親じゃないでしょ?そこまで義理通す必要あんの?」
ただの他人でしょ?とエンヴィー。
ゆるゆると解け始める氷柱。
氷柱のむしろから解放されたエンヴィーは中佐をひと蹴りして俺たちから距離を取る。
「ってかさー。その親子ゴッコやめたら?ウザいんだよね。つまんねーし。」
氷柱は完全に溶けて、ビーネの足元で中佐の血と水が混ざりあう。
「どうせこいつだって、あんたの事を助けたのだって偽善とか言うやつだろ?絶対。」
ピクリとも動かなくなったビーネ。
「世間にいい顔するにはいい事するのが一番だもんなー。心の中ではあんたのことなんてこれっぽっちも思ってなかったんじゃね?」
あははははっ!と高笑いをするエンヴィー。
ようやく動き出したのは……大佐だった。
「もう、喋らなくていいぞエンヴィー。まず、その舌の根から焼き尽くしてやろう。」