第29章 『再・分解』 4
パンっ!と一際大きな音が聞こえると、ばしゃり。と重い水の音がして、視界が晴れた。
むわっと部屋に湿度が戻ってきたのが感じられた。
「お前何なんだよ!賢者の石でも持ってんのかよ!」
「石なんていらないよ。」
姿の見えたエンヴィーは既に人間の姿に戻っていて、ビーネに向かって呻っている。
ビーネは中佐の氷を溶かして、大切に抱き上げこちらに向かって滑りこんで来た。
「ロイ!父さんを!」
飛ぶように踵を返してまたエンヴィーと対峙したビーネは、部屋の水分量を調べるかのように大きく息を吸ったり吐いたりしていた。
「僕が死ぬか。君が死ぬのが先か。」
「何。決闘でもしようっての?ばか?」
両手を合わせ突っ込んで行くビーネ。
応戦するエンヴィーは身体をくねらせ攻撃を避ける。
一瞬。エンヴィーがビーネを蹴り飛ばし、隙ができた。
「えっへへ!いっただきぃ!」
エンヴィーが折れた氷柱を握り、ひとっ飛びで大佐と中佐の所へ迫った。
「やめろっ!」
ふらついたビーネが一拍置いてエンヴィーを追いかける。
俺も思わず身体が動いていた。
機械鎧の右腕を精いっぱい伸ばし、エンヴィーの氷柱の行く先を阻止しようと試みる。
「やめろぉぉおおおおおおおっ!!」
「あっはははっ!!!」
俺の手もビーネの手も届かなかった。
大佐の横で、鮮血が散る。
エンヴィーの握る氷柱は中佐の腹を貫いている。
俺の手は氷柱の中腹を掴むだけ。
ビーネの手はエンヴィーの腕に触れるか触れないかの所で固まっている。
「かはっ!いっつー。うわー…。」
久しぶりに聞いた、呑気な中佐の声。
耳を疑った。
「お?よぉ、ロイ。エド。」
きっと中佐にはエンヴィーの肩口からハッキリとビーネの顔も見えているだろう。
「ハニー?」
「とう、さ…。」
「あぁ、泣くな泣くな。」
冗談でも言いそうな優しい声。